昭和初期といえば、全国的には農家が多かった時代である。田の字型をはじめとする、畳の部屋が襖などでやおらかく仕切られた住空間のなかで、老人は家族と一体の生活をしていた。一番立派な奥の座敷で就寝する老人の傍らには、母親といっしょの乳児を除く年長の孫たちが寝息をたてていたはずである。隠居慣行も広く分布していた。隠居家が上等な普請のものから物置の一隅のものまでさまざまだったように、そこでの生活も土地、土地で異なっていたようである。
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しかし一定の規範のもとでの生活にはある安定は得られたことだろう。都市においては多くの中廊下型住宅が建てられていた。明治の終わり頃から徐々に形成されはじめ、大正時代の住宅改良運動でも奨励されて中流住宅の典型となっていたこのタイプの住宅に、当時の都市の老人は住んでいたということになろう。しかし実はここには老人はあまり多くなかったかもしれない。